受け止め方を変えれば葛藤が減

葛藤を解決するもうひとつの柱である認知行動療法的手法では、起こっている事実は変えられませんが、事実をどう受け止めるか(認知) を変えます。

認知に偏りがあると葛藤を感じやすくなりますから、偏った認知を正していくのが認知行動療法的手法の狙いです。認知の歪みには、物事に白黒をつけないと気が済まない「全が無かの思考」、ひとつよくないことがあると「いつもこのザマだ」と思い込む「過度の一般化」、なんでもないことやよいことまで悪い出来事と捉える「マイナス化思考」、些細な失敗をおかしたときに「オレはやっばり三流だ」とネガティブなレッテルを貼る「レッテル貼り」などがあります。

たとえば、「上司が自分に対してつらい仕打ちばかりをする」とか「自分を正しく評価してくれない」といった不満でイライラしている人には、「上司があなたを評価している面を考えてみましょう」と助言します。

すると「あの上司は細かい指摘ばかりするけれど、私が期日を絶対に守るところだけはいつも認めてくれている」とか「かつて大きな失敗したときに、優しい言葉をかけてくれたことがある」という別の事実が発見できます。

そこには「過度の一般化」という誤った受け止め方が働いていたわけです。それを認めたうえで自分を非難する上司と褒めて評価してくれる上司を両方並べて、「表の面と裏の面があるな」と現実的な検討を加えてより合理的な判断を下し、葛藤の軽減を狙うのが認知行動療法的手法のアプローチです。

「眠れないから酒を飲むんです」と主張するアルコール依存症者は多いのですが、これはギャンブル依存症者が「お金を増やして借金を返すためにギャンブルをしているんです」と主張するのと一緒です。

よくよく聞くと眠るのが目的ではなく、「嫌なことを忘れたい」という現実逃避目的で酒を飲んでいるケースが極めて多いのです。

飲酒で現実逃避していたタイプが睡眠薬で眠れるようになったとしても、現実逃避欲はアルコール以外のなにかで満たしてあげる必要があります。

酒で現実逃避している患者さんの話を聞いてみると、逃避したい葛藤の元になっているのは多かれ少なかれ人間関係です。

夫婦関係、親との関係、仕事上の人間関係、友人関係などです。「あの人のことを考えると腹が立つやら苦しいやらでどうしようもないけれど、逃れられない。緑を切ろうと思っても緑が切れない」という悩みです。

人間関係の葛藤の背景には相手に対する「執着」と「拒絶」、つまり「愛情」と「憎悪」の板挟みがあります。どちらかひとつであれば、なんの問題もありません。憎悪のみならそこで関係をバッサリ断つことも可能ですが、愛情と憎悪が括抗しているとそれも難しくなります。

アルコールで現実逃避をしている人はそういう葛藤を抱えているケースが多いのです。葛藤を解決するためにはさまざまな方法がありますが、いずれもその葛藤が納得して割り切れるようになることを目標としています。

「なるようになる」「ジタバタしても仕方ない」という割り切りを飲酒で得ていたわけですから、別の割り切り方が必要になるわけです。代表的な割り切りの手法としては、前述した内観療法以外に「精神分析的手法」と「認知行動療法的手法」が挙げられます。

精神分析的手法では幼児期の親との関係まで戻り、無意識レベルまで遡って夢分析などを通じて葛藤の原因を探るというアプローチをします。「あなたは小さいころ、お父さんからこういう仕打ちを受けていました。あなたのいまの苦しみは、そこから出ているのですよ」といった事柄を、本人の気づかない無意識を連想や夢分析で探るのです。

すると「あっ、そうか。私の苦しみの源には幼児期の体験が潜んでいたのか! 」と理解して、憑き物が落ちたように楽になります。この精神分析的手法には劇的な効果を望めますが、半年、1年と治療に結構な長期間がかかります。

根本的な無意識レベルまで掘り下げて心を探索して治療するわけですから、プロセスに時間がかかるのは仕方ないのです。また保険の適用外であり、自費診療であることが大半ですから、それだけのコストは覚悟してください。

アルコールの肝臓への負担は睡眠薬の2000倍

「睡眠薬は危険」というイメージは根強いです。しかし、それは過去に使われていたパルピツール酸系の睡眠薬の悪い印象が抜けないから。パルピツール酸系は呼吸抑制作用が強く、大量服用(オーバードーズ) で死に至るリスクもありましたが、現在主流の睡眠薬はベンゾジアゼピン系といってより安全なものです。

多量に飲むと一昼夜眠り続けることもありますが、呼吸抑制作用は弱いです(それでも大量服用後に吐いたものを喉に詰まらせる窒息死の危険は残ります)。

アルコールと睡眠薬では、肝臓への負担も違います。アルコールも睡眠薬のような薬物も肝臓で代謝されて無毒化されます。ビール1本にはアルコールが20 gほど含まれていますが、睡眠薬ならその2000分の1 の10mgの服用で効果を発揮するものが多く、肝臓への負担は睡眠薬のほうがはるかに少ないのです。

眠りに問題があるならば、内科もしくは精神科クリニックで睡眠薬を処方してもらうとよいでしょう。睡眠薬を3ヶ月から半年くらい服用し、睡眠リズムができてきたら、投与量をだんだん減らしていきます。

1日置きに飲む、もしくは週末は飲まないようにするなど段階的に減らしていくのです。断酒のための薬物も睡眠薬も、脚の骨を折って歩けない人が、歩けるようになるまで使う松葉杖のようなもの。ずっと使い続けるものではないのです。

どうしても眠れないのなら「セロトアルファ」などを使うことも考慮しよう

断酒期間に睡眠薬を使うこともあります。酒が切れた後は、その反動で寝つきが悪くなるからです。寝つきをよくしようと寝る前に酒を飲む人がいます。

「寝酒」を睡眠薬代わりにしているわけですが、そもそもアルコールは睡眠薬としては質がよくありません。眠りにつく「就眠力」は強いのですが、その眠りを持続させる「睡眠持続力」が弱いからです。

こんな経験はないでしょうか。会社の飲み会で酒をたくさん飲んで帰宅、即刻眠りについたものの、夜中に目が覚めてしまったという経験です。それもそのはず、酒を飲んで眠れたとしても睡眠持続力は大体3~4時間くらいなのです。個人差はあるものの、一般的には睡眠時間は7~8時間くらいが自然ですから、アルコールは「質の悪い睡眠薬」といえます。アルコールは就眠力が強いので一見ぐつすり寝たような気になりますが、3 ~4時間間で眠りが浅くなり、7〜8時間寝たつもりでも残りの3〜4時間は浅く質の悪い睡眠になってしまい、寝ているのに疲れが残るというのがアルコールに頼った睡眠の特徴なのです。

眠るために酒に頼っているタイプは断酒の反動が大きいので、睡眠薬(睡眠導入剤)を使ったはうがよいでしょう。睡眠薬は7〜8時間の睡眠を想定して設計されていますから、アルコールよりも自然な効き目を発揮します。睡眠薬がいまひとつという方は「セロトアルファ」などが効く場合があります。

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仕事以外でニッチな代替テーマが必要

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仕事で酒に代わる達成感などを得ようとして挫折する人は大勢います。仕事は自分ひとりで完結するわけではなく、会社の利益があり、客商売ならお客さんの利益があり、組織内の先輩、同僚、後輩との競争もあります。

そういう複雑な人間関係のうえになり立つ仕事で、自分の達成感だけを追求するのはちょっと無理があります。

仮に達成感が得られたとしても、それはあくまで結果にすぎません。逆にいうと仕事で満たされないから、それを飲酒で満たしてきたともいえます。

私の場合、仕事に関連する論文の執筆を飲酒によって得ていた醗酎の代わりにしたわけですが、これは私ひとりで完結する作業です。その点、私は職業的に恵まれていました。仕事以外で自分に合うもの、やりやすいものを探してみるのも効果的な手段となり得ます。

ここ数年は「マラソンブーム」といわれるように、ランニングを楽しむ人が増えています。もしランニングに興味があるなら、マラソン完走を目指すのもいいと思います。

多くの人がフルマラソンを完走している時代ですが、そうはいっても42 .195mを完走すると、「やったね! 」「すごいね! 」などとまわりから褒められるものです。

その先には100kmを超えるウルトラマラソンの完走、仮装してテレビに映るといった「ひとつ上をいくチャレンジ」も開けるかもしれません。まずはあれこれ考えすぎないようにして、行動してみることが大切。

そうすると、その先にある達成感が見えてくることもあるからです。達成感を得るコツは、「よりニッチなテーマ」を探すこと。

アルコールでも薬物でも依存症者は多数に合わせようと一生懸命になって結局自爆することが多いので、もっと小さなグループのニッチな世界で欲望が満たせるものを探すはうがより満足感を得やすいです。皿洗いがストレス発散になる場合もあります。

皿洗いが効果的

酒を飲んでストレスを発散してリラックスしたいという欲望を持っている人も少なくありませんが、リラックスする手段は飲酒以外にもどまんとあります。

塩入り半身浴、アロマテラピーを試す、ヨガや瞑想にトライしてみる... 。もう手当たり次第に試してもらいます。

身体を動かすのが苦手な文化系タイプは、絵を描くのもリラックス法のひとつになるかもしれません。

なにを提案してもピンとこない人には、皿を洗ってもらいます。「えっ、皿洗い? 」と意外に思われるかもしれませんが、皿を洗っていると「きれいに洗う」とか「皿を割らないように」などと結構集中しますから、ストレスから解放されやすいのです。

ある程度慣れると、皿洗いはほとんど流れ作業になり、なんら頭を使う必要はありません。集中しながら頭は使わないという意味で、皿洗いは優れたリラックス法なのです。

同様に草とりもリラックスできます。自宅に庭がないのなら、近所の公園の草とりをボランティアでしてもいいでしょう。

飲酒欲求や飲酒量を薬で減らしたとしても、酒が満たしていた欲望を充足する手段を見つけない限り、依存症から脱することはできません。

本当の欲望を満たさずに、薬で飲酒欲求だけを減らしてしまうのは危険なのです。飲酒欲求が抑圧されることで、それが自他への攻撃性に転化してしまうからです。それくらいなら圧倒的な飲酒欲求に従い、酒を飲んだはうが精神的には楽です。

飲酒欲求の背後に隠された欲望を見つけるには結局、「あなたは酔っぱらって、なにが欲しいのですか? 」という問いを地道に繰り返すのがいちばんの近道です。そうやって見つけ出した欲望に対して、私たちは飲酒以外の欲望充足法を患者さんと一緒に考えていきます。

私の場合は評価欲の代替を飲酒欲求に求めていたわけですが、それ以外にも依存症者はさまざまな欲望を酒で満たそうとしています。酒を飲んで空想の世界に浸りたいという人には、空想の世界に入る手続きなり、やり方なりを学んでもらいます。

空想を巡らせて詩や小説を書くところまでいかなくても、カラオケでアイドルスターになり切って歌ってみる程度でも十分です。漫画、ゲーム、インターネットに浸ってみるのもいいでしょう。

飲む、飲まないの二択は時代遅れになった

欧米、とくに欧州のアルコール依存症の治療では、「飲むか」「飲まないか」の二者択一を迫るという考え方は減少しています。

それよりもいかに飲酒の害を減らすかという「ハーム・リダクション」という概念が主流になってきました。

前述のナルメフエンという飲酒欲求抑制薬を断酒ではなく、飲酒量抑制を目的に利用をしています。

前述したトピラマートについては、保険適応の認可は現実的に困難です。保険適応を受けるには製薬会社に動いてもらうのが近道ですが、

トピラマートはすでに特許が切れた薬。治験のために大金を投資しても独占的に販売できるわけではありませんから、製薬会社にしてみるとうま味がありません。

通常は数年、独占的に販売できる間に治験にかけた大金を回収して利益を出すというのが、製薬会社のビジネスモデルだからです。別のやり方として「医師主導治験」というものがあります。

これはわれわれ医師が厚生労働省所管の独立行政法人「医薬品医療機器総合機構」に申請して、審査に合格したら国から予算をもらって治験をする方法です。2014年の「日本臨床精神神経薬理学会」で医師主導の治験に関するシンポジウムがあり、学会として医師主導の治験を支援するための候補として、トピラマートを含めて4つほど挙げてくださいました。

薬を飲んで飲酒量を半量に減らす

もうひとつ、てんかんの薬で「トピナという薬があります。これも脳の欲求を抑える効果があります。

アルコール依存症には適応はありませんが、飲酒の代わりの欲望を探す期間、患者さんに楽に過ごしてもらうため同書にサインしてもらって処方することがあります。

その結果、夕方、もしくは朝と夕方に飲むと酒量が半分、もしくはそれ以下に減ったという結果が出ました。その成果を論文にまとめて発表したところ、専門誌に掲載されて2014年に日本アルコール薬物医学会で優秀論文賞をもらいました。

これまでの日本のアルコール依存症治療では、「酒量がたとえ半分になっても断酒しないと意味がないし、それを一生続けないと意味がない」という患者さんにとって極めてハードルが高い治療目標を掲げてきた歴史があります。

「薬を飲んで飲酒量を半分に抑える」という治療法を評価してくれたのは、日本のアルコール依存症の治療が変わるきっかけになるかもしれません。

アル中を脱する | 大酒飲みのための教科書

ギャンブル依存症ではギャンブルを禁止せずに欲望充足法で治療をしますが、アルコール依存症では断酒をするのが大前提。

前述のように「一生断酒しなさい」とはいいませんが、自分の隠れた欲望を探そうとしても、飲み続けていると離酎が邪魔をして自分の欲望の発見が難しくなるからです。離酎すると結果的に飲酒そのものが自分の欲望であるという勘違いがずっと続きますから、欲望充足法に移行するときには3ヶ月から半年くらいの禁酒期間を設ける必要があります。

アルコール依存症では、酒が切れた後、強い欲求が訪れます。その欲求は薬を使って抑えるしかありません。2013年から「アカンプロサート」という飲酒欲求を抑える薬が保険で使えるようになりました。7年前にはなかったので私自身は使えなかったのですが、もしあったら他の医師に処方してもらって絶対に使っていたと思います。

ただし効果が弱いのが難点。飲酒欲求を30~50 % 抑える効果は期待できますが、ゼロにしてくれるわけではありません。欧米では「ナルトレキソン」というもっと飲酒欲求の抑制効果が高い薬もあります。それに似た薬で「ナルメフエン」という医薬品があり、こちらは日本でも治験がはじまっています。

これらの医薬品は酒を飲みたいという欲求だけを選択的に抑えてくれます。人間の欲望を全部抑える薬もありますが、それを使うと性欲も食欲も生きる意欲も抑えられてしまいます。おもに統合失調症に使われる薬で依存症には適応外ですが、患者さん本人の強い希望があれぼ、当座しのぎに処方する場合もあります。